今回は遺留分のお話です。「遺留分?それって美味しいの?」という方もいらっしゃるかもしれません。
「なんとなく遺留分という言葉は聞いたことがある!」という方もいらっしゃるでしょう。
簡単にいうと、遺留分とは「一定の相続人が最低限確保できる取り分」のことです。多少、不正確な表現なので順番に説明していきます。
遺留分と聞いて、「相続人には法定相続分という法律で認められた取り分があるじゃないか!」と疑問に思った方いませんか?
まず、前提として、
遺言によって法定相続分とは違う割合で相続人に相続させたり、相続人以外の者に遺贈することができる。
ということを忘れてはいけません。
そうです、遺留分とは、
遺言の内容にかかわらず、最低限取得できる取り分が保証されるという、一定の相続人の権利
のことなのです。例えば、「全財産を長男に相続させる」という遺言がある場合に、妻や二男など一定の相続人にも最低限の相続分の取得を主張する権利が認められるということです。
それでは、遺留分について詳しくみていきましょう。
遺留分のある相続人は以下の三者です
改めて、遺留分とは「一定の相続人に必ず留保される遺産の一定割合」です。少し法律っぽく説明するとこんなかんじでしょうか。
先ほどより一貫して、「一定」の相続人と書いてきました。そうです。一定です。すべての相続人に遺留分があるわけではありません。遺留分のある相続人は以下の三者に限られます。
- 配偶者
- 直系卑属
- 直系尊属
具体的な遺留分は、おおまかにいえば、各相続人の法定相続分の2分の1です。ただし、直系尊属のみが相続人である場合には、3分の1となります。
民法1042条(遺留分の帰属及びその割合)
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
ここで、法定相続分と遺留分の大きな違いは、
兄弟姉妹には遺留分がない
ということです。
そもそも、相続制度は、遺族の生活を保障するために存在していると考えられており、遺言などによっても奪うことのできない最低限の遺産を取得する権利を認めるという意味で遺留分の制度が設けられているのですが、兄弟姉妹に遺留分がない理由として、兄弟姉妹は相続順位第3位で法定相続人の中では被相続人との関係が最も遠いことが挙げられます、また、兄弟姉妹の子が代襲相続人になる場合、被相続人から見て甥や姪にあたる人たちが相続に参加します。もし、兄弟姉妹に遺留分を認めてしまうと、甥や姪にまで遺留分の権利が発生することになり、「遺言者の遺志の実現という点から好ましくないのではないか」などの理由があるといわれています。
相続人 | 子(代襲者) | 直系尊属 | 兄弟姉妹 |
配偶者がいるとき | 配偶者4分の1 子4分の1 | 配偶者3分の1 直系尊属6分の1 | 配偶者2分の1 兄弟姉妹0 |
配偶者がいないとき | 子2分の1 | 直系尊属3分の1 | 兄弟姉妹0 |
遺留分が侵害された場合は?~侵害額を金銭で請求(遺留分侵害額請求権)
では、遺留分を侵害された者は、どのような手段でこの侵害に対抗することができるのでしょうか?
遺留分が侵害された場合には、遺留分の権利を持つ者(遺留分権利者)は、遺留分の侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。
民法1046条(遺留分侵害額の請求)
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができる。
遺留分侵害額請求権を行使するにあたり、遺留分を侵害された者は、遺留分を侵害した者に対して、侵害額を支払うよう意思表示をします。この意思表示は、書面で行わなければならないとか、裁判によらなければならないといったような制約は特にありません。が、「侵害額の支払いを求めた」という証拠を残すためにも、書面にして、できれば内容証明郵便などで行うのがよいでしょう。
以前は、遺留分を侵害された者が請求を行うと、対象となる財産そのものが遺留分権利者のものとなりましたが、民法の改正に伴い、現行の制度では侵害分の金銭による請求のみができます。制度の名前も、以前は「遺留分減殺請求権」でしたが、民法改正後は「遺留分侵害額請求権」となりました。(以前は、遺留分減殺請求権が行使されると、財産が不動産などの場合には、共有になってしまい、不動産の売却がしづらくなるなどの問題がありましたが、遺留分侵害額請求権になったことで、財産を共有せずとも、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを受けることで解決できることになりました。ちなみに、双方が合意すれば、金銭に代えて不動産を渡すことも可能です)
遺留分を請求する権利は放棄することもできます。被相続人の遺言を尊重するのであれば、必ずしも権利を行使する必要はありません。
遺留分は、遺留分侵害額請求をしてはじめて認められるものなので、被相続人の死亡後に遺留分を放棄する場合には特に手続きをする必要はありません。
なお、家庭裁判所の許可を得れば、相続開始前に遺留分の放棄を行うことも可能です。この点、相続開始前と開始後で異なりますので注意が必要です。
遺留分は、一定の相続人であれば、遺言の内容にかかわらず、法律で決められた取り分を必ず取得することができる制度です。
もちろん、必ず遺留分を請求しなければならないということではなく、遺言者の遺志を尊重して、遺言で指定された内容どおり従うことは何の問題もありません。
遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間で消滅します。また、相続開始の時から10年が経過した時も消滅します。(民法1048条)