成年後見制度(任意後見)~本人が判断能力を失う前に後見人を決めておく

以前、法定の成年後見制度について書きましたが、今回は任意の成年後見制度(任意後見制度)について書いていきます。

任意後見制度と法定後見制度との決定的な違いは、

法定後見制度が本人が認知症などで判断能力を失ってしまった”後”に活用する制度であるのに対して、任意後見制度は本人が判断能力を失ってしまう”前”に活用する制度である

ということです。もう少し詳しく言うと、

任意後見制度は、本人自身が将来、病気や認知症などで判断能力が十分でなくなった場合に備えて、本人自身が委任者となって、あらかじめ契約(任意後見契約)によって後見人(任意後見人)を選任しておく制度

です。

法定後見では後見人を家庭裁判所が選任しましたが、任意後見では、後見人は本人が選任して契約を結びます。

では、さっそく任意後見が開始するまでの流れを見ていくことにしましょう。

任意後見が開始するまではこのような流れで進んでいきます

任意後見人になってもらう人を決めてから実際に任意後見が開始するまでは以下の①→⑤の順番で進んでいきます。

任意後見人を引き受けてもらう人と契約をし(契約は公正証書で作成します)、その後、本人の判断能力が低下した時点で家庭裁判所への申立てにより任意後見監督人が選任されて実際に任意後見がスタートします。

①任意後見受任者(任意後見人になってもらう人)を決定する…任意後見人の資格については法律上の制限はなく、法人を後見人にすることも、複数の後見人を立てることも可能です。未成年者や破産者でなければ基本的に誰でも任意後見人になることができます。身内でもなれますし、弁護士や司法書士、社会福祉士等の専門家に依頼することもできます。

②契約内容を決定する…財産の管理や処分、介護や生活面の手配など、これらの事務の全部または一部について代理権を付与する内容を決定します。ただし、法定後見の成年後見人と異なり、任意後見人には同意権や取消権はありません。

③公証役場で任意後見契約を締結する…任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならないことになっています。

④公証人の嘱託により法務局で登記がなされる…任意後見人は法務局から任意後見人の氏名や代理権の範囲を記載した登記事項証明書の交付を受けて、自己の代理権を証明することができます。

……………… 断能力低下 ………………

⑤任意後見監督人の申立て任意後見監督人の決定~任意後見開始…任意後見受任者や親族等が本人の同意を得て(本人がその意思を表示することができないときはこの限りではありません)家庭裁判所に対して、「本人の判断能力が衰えて任意後見事務を開始する必要が生じたので任意後見監督人を選任してほしい」旨の申立てをし、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、その時から任意後見が開始し、任意後見受任者は任意後見人として契約に定められた仕事を開始します。

なお、任意後見人に対する報酬は、契約を締結する委任者と任意後見受任者が決めます。受任者が身内の場合は無報酬の場合も多いようですが、弁護士などの専門家の場合は報酬について契約で決めておきます(月2~6万円)。任意後見監督人に対する報酬は、家庭裁判所が諸事情を考慮して額を決定しています(月1~3万円)。これらの報酬は任意後見終了まで継続的に発生します。

法定後見制度と任意後見制度をかんたんに比較

法定後見制度と任意後見制度の違いを表にしてまとめてみましたので、参考にしてみてください。

法定後見制度任意後見制度
後見制度の利用本人の判断能力が既に不十分となっている場合に利用現時点で、本人の判断能力が十分ある場合に利用
後見制度の開始後見開始の審判後見監督人の選任
後見人の選任権者家庭裁判所本人
後見人に付与される権限法定されている本人が自由に選択
後見人の同意権、取消権ありなし
被後見人の行為能力の制限ありなし

任意後見契約は、委任者の判断能力が低下した際に、任意後見監督人が家庭裁判所より選任されて任意後見が実際に始まります。したがって、契約を締結した時からそれまでのあいだは、任意後見受任者には特に権限がありません。

そこで、「見守り契約」を締結するケースがあります。見守り契約とは、任意後見が始まるまでの間、任意後見受任者が定期的に委任者と電話で連絡を取ったり、自宅に訪問して面談をすることにより、委任者の健康状態や生活状況、事理弁識の能力を把握して、任意後見の開始時期を適切に判断するための契約です。

このような見守り契約を締結しておけば、任意後見受任者が委任者の状況を正確に把握して、適切な時期に任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申立て、任意後見をスムーズに開始することが可能となります。