被相続人(亡くなった人のこと)が遺言をのこしていた場合に、その遺言の内容を実現する手続きのことを遺言執行といいます。
そして、遺言の内容を実現するために、相続財産の管理や、遺言の執行に必要な行為をする人を遺言執行者と言います。
つまり、遺言執行者が遺言の内容を実現する担い手として遺言の執行にあたります。
民法1012条(遺言執行者の権利義務)
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
一方、遺言を作成した側の立場からすると、「遺言に書いた内容通りに仲良く分け合ってくれるだろうか?」、「果たして、ちゃんとこの遺言の存在に気付いてくれるだろうか?」など、自分の思い通りに遺言が実現されるかどうか不安になるのではないかと思います。
というわけで、今回のテーマは、そんな遺言の実現に重要な役割を果たす「遺言執行者」についてです。
ただ、遺言の執行や遺言執行者の任務についてあれやこれやと書き始めると、内容が膨大になってしまい、とてもいちどに書ける分量ではなくなってしまうので、まずはその入門編として、「遺言執行者に関する基本事項」について書いてみようと思います。
遺言執行者は必ず必要ですか?遺言執行者は誰が決めるのですか?
結論、遺言執行者は絶対に必要というわけではありません。
遺言に遺言執行者についての記載がなく(遺言執行者が指定されていない)、相続人等の利害関係者全員が遺言執行者は必要ないと考えるのであれば、無理に選任する必要はありません。
そうはいっても、遺言執行者は、「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」ということですから、遺言の内容を確実に執行(実現)してもらうという観点から考えると、遺言執行者の役割は非常に大きいと考えられます。
では、遺言執行者は誰がどのように決めるのでしょうか?
実は、遺言執行者はいつでも誰でも選任できるわけではありません。指定された方法で選任をしなければならず、その方法は以下の3つです。
- 遺言で指定する(民法1006条)
- 第三者に遺言執行者を指定してもらう内容の遺言を作成する(民法1006条)
- 遺言者の死亡後に家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらう(民法1010条)
遺言で遺言執行者の指定がない場合や、指定された者が辞退した場合、死亡していた場合には、相続人や受遺者等の利害関係人は、家庭裁判所に対して遺言執行者の選任を申立てることができます。
この際、申立人は、遺言執行者の希望候補者を述べることができます。そして、家庭裁判所は、候補者の意見を聞き、候補者が遺言執行者への就職を承諾するかどうかの意思を確認するとともに、候補者が遺言執行者として適任であるかどうかを判断します。
遺言執行者は誰でもなれるのですか?1人じゃないとだめですか?
遺言執行者になるにあたって特別な技能や資格は必要ありません。個人(法律用語でいうと自然人といいます)に限らず会社のような法人も遺言執行者になることができます。
実際のところ、相続人や受遺者が遺言執行者に指定されることがとても多いです(実際に遺産を受ける当事者である相続人や受遺者が自ら遺言執行者になることは何ら問題ありません)。
相続人や受遺者の中に遺言執行者として適任の人物がいない場合(執行能力に不安があるなど) に、弁護士、司法書士、行政書士などの法律専門職に依頼するという方法もあります。
遺言執行者は基本的に誰でもなることができるのですが、
- 未成年者
- 破産者
は遺言執行者になることができません。
民法1009条(遺言執行者の欠格事由)
未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。
以上の条件に該当しなければ、ほぼ誰でも遺言執行者になることができます。
ちなみに、遺言執行者は1人である必要はありません。2人以上の遺言執行者を選任することもできます。例えば、1人は相続人、もう1人は法律専門職というように、複数の遺言執行者を選任するというケースも多いです。
遺言執行者が担う仕事は具体的にどのような内容ですか?
遺言執行者には強い権限が与えられています。「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(1012条1項)」(大切な条文なので3回書きました)
1012条には2項もあります。
民法1012条
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
なんだか、遺言執行者の立場がすごく強そうですね。さらに、
民法1013条(遺言執行の妨害行為の禁止)
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
これらの条文から、「遺言執行者の強力な権限が法律で認められているんだなあ」と感じていただければと思います。
では、遺言執行者が具体的に行っていく仕事の内容やそれに伴う義務について書いていきます。
遺言執行者が担う仕事の具体的な内容
- 相続人や受遺者の確認作業→戸籍等を収集し相続人を確定
- 相続人や受遺者への連絡→遺言執行者に就職した旨、遺言の内容を相続人に通知
- 相続財産の管理→遺言に書かれた財産の存否や変動の確認・調査
- 相続財産の目録作成→相続財産目録を作成し相続人に交付
- その他相続に関する諸手続き→不動産の名義変更(登記)、金融機関の手続等の諸手続き
遺言執行者は、相続人の請求があるときは、いつでも遺言執行の状況等について報告する義務があり、この義務を怠った場合には、債務不履行責任を負うことになりますので注意が必要です。
遺言に記された内容の権利義務の履行手続の全部が終了したとき、遺言の執行は完了しますが、任務が完了した後は、相続人や受遺者に対し任務完了の通知をし、直ちに、遺言執行にあたって受領した金銭やその他の物を相続人に引き渡さなければなりません。
相続人に引き渡すべき金銭またはその利益のために用いるべき金銭を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならず、さらに損害があるときは相続人に対し、その損害を賠償する責任を負います。
遺言執行者には強い権限が与えられている反面、履行すべき義務も負っています。遺言執行者に就職する場合には、遺言執行者の権利や義務についても十分に理解しておくことが大切です。
遺言執行者は未成年者や破産者を除けば、基本的に誰でもなることができます。また、廃除や認知など一定の事由が遺言に書かれている場合を除けば、遺言執行者の選任は必須のことではありません。
とはいえ、相続の手続きをスムーズに進めていくために遺言施行者の選任はとても重要です。この機会に遺言執行者の役割をしっかりと理解しておきましょう。
遺言執行者の選任は必ずしも必要ではありませんが、例外があります。
遺言による認知の場合には、遺言執行者は、その就職の日から十日以内に、認知に関する遺言の謄本を添付して、・・・その届出をしなければならない。
上記の二つを遺言によって行うのであれば、必ず遺言執行者を選任しなければなりません。
もし、上記の場合で、遺言に記載があるにもかかわらず、遺言執行者がいないのであれば、家庭裁判所に遺言執行者の選任の申立てをする必要があります。