相続対策の誤解~相続に対するそのイメージ、間違った思い込みかも?

皆さんは、相続やその対策についてどのような認識もしくはイメージをお持ちでしょうか?

最近では、相続に関する様々な情報が手に入りますので、いろいろと勉強されて自分なりの考えをお持ちの方も多いかと思います。

しかしながら、そうは言っても普段の生活の中で相続についてあらためて考えたり、話し合ったりする機会はなかなか無いでしょう。

そこで今回は、「もしかしたら相続についてこんな思い込みや誤解をしていませんか?」ということで、3つのケースについて書いていきます。

間違った認識や思い込みから、相続対策を全く考えていないとか、先延ばしにしている方がいらっしゃったなら是非参考にしてほしいと思います。

相続についての間違った思い込み①〜相続対策はお金持ちがするもの

「相続対策なんて、お金持ちがするものでしょ。うちには大した財産も無いし…」

早速聞こえてきそうな意見です。こう考えている方、けっこういると思います。

この勘違いは、相続トラブルの種になるかもしれません。

たしかに、相続”税”対策はお金持ちだけがするものかもしれませんが、相続対策はほぼすべての家庭に必要です。

まず、この違いをしっかり区別しておきましょう。

相続”税”対策というのは、可能な限り相続税を減らすための対策、いわゆる「節税対策」です。

では、亡くなった方のうち、実際に相続税がかかる人の割合はいったいどれくらいなのでしょうか?

2019年の公益財団法人生命保険文化センターの調べでは、死亡者数1,381,093人に対して相続税が課税されたのは115,267人。割合にすると8.3%です。

これは、100人のうち8人にしか相続税がかかっていないということであり、裏を返せば、100人のうち92人は相続税とは無関係ということです。

そんなこともあって、多くの人が、「うちには大した財産も無いし…相続対策なんて不要」と思ってしまうのかもしれません。

ちなみに、なぜこんなに相続税がかかる人が少ないのかというと、相続税には、基礎控除という考え方があるからです。(基礎控除の詳しい内容については別途記事を書いていますので、そちらもぜひご覧ください)

とはいえ、「相続対策」はすべての家庭にとって必要です。

仮に相続財産の額が相続税のかからない額であったとしても、残された人たちにとって重要な財産であることに変わりはありません。

どう分けるかで揉めることなんて、普通にありますし(子供がおやつで切り分けたケーキの大きい小さいで兄弟喧嘩しますよね。大人になって、分ける財産の大小で喧嘩になるのも同じことです。)、また、相続財産の金額が小さいほどよく揉めるなんてことも言われます。

下記は、平成30年度の司法統計資料(裁判所ホームページより引用)を参考にしたのですが、

相続財産総額件数割合
1,000万円以下2,47632.98%
5,000万円以下3,24943.27%
1億円以下83211.08%
5億円以下5337.10%
5億円超530.70%
算定不能・不詳3644.84%
総数7,507

家庭裁判所で遺産分割事件として取り扱われたものの中で、相続財産の総額が5,000万円以下のものが7,507件中5,725件で、全体の4分の3以上の76.26%となっています。さらに、総額1,000万円以下で32.98%というのも注目すべき数字だと思います。

相続財産が少ないからこそ、それをどのように分けるのか意見がまとまらないということも考えられますし、また、相続財産の大半が自宅などの不動産だった場合には、自宅を相続しなかった人から不満がでてくるなんてこともあるでしょう。

額が少なかったとしても、「自分の思っていた取り分と違う」とか、「もらえると思っていたのにもらえなかった」なんてことになるなら、それは誰でも腹が立ちますし、権利を主張したくもなります。

理想の相続は、相続税がまったくかからない相続ではなく、財産を1円でも多く受け取れる相続でもなく、

被相続人の希望がしっかり尊重されて、なおかつ、相続人全員の納得がいく分配が行われる相続

です。

そのためには、普段からのコミュニケーションが大切ですし、日頃から来るべき日に備え、相続について話し合い、しっかりと相続についての対策を準備しておくことが重要です。

相続についての間違った思い込み②〜相続割合は法律で決まっている

「財産を相続する時は、それぞれの取り分が法律できちんと決められているんだから、それに従って分ければいいだけでしょ。どうして揉めることがあるの?」なんて思っていた方、これも少し勘違いをしてしまっている可能性があります。

「遺産を相続できる人=相続人になれる人」はきちんと法律(民法)で決まっています。この人たちのことを法定相続人といいます。

また、法定相続人がどのくらいの割合で相続できるかについても民法に定めがあります。この割合のことを法定相続分といいます。

たしかに、民法上、それぞれが相続する割合の定めはあります。ただ、この法定相続分についてちょっぴり勘違いをしてしまって、「私には、これだけ(法定相続分にあたる部分)は相続する権利があるのよ!」と思い込んでしまい、取り分を当然のように主張してしまう方がいます。

しかし、法定相続分というのはあくまで「目安」です。

大切なことなので、もう一度言いますね。

法定相続分はただの「目安」

です。ここのところを勘違いしている方、けっこういらっしゃるのではないでしょうか?

相続には主に次の3つのパターンがあります。

  1. 遺言による相続
  2. 分割協議による相続
  3. 法定相続

遺言があれば原則、遺言に従って相続します。もし、遺言がなければ、相続人全員で遺産分割協議をして、それぞれの取り分を決めていきます。

つまり、法定相続の割合(法定相続分)というのは、必ず従わなければならない割合ではなく、遺言や遺産分割協議といった方法を利用しなかった場合の割合だということです。決して、相続人それぞれの取り分を保証してくれるものではありません。

「法定相続分=自分の取り分」という誤解は、いざ遺産を分ける時になって、「期待していた自分の取り分がもらえない」なんてことになると、それがまた揉める原因になってしまいます。

あらかじめ抱いていた期待からの落差が大きければ大きいほど、イライラや怒り、争いの種になってしまう可能性が大きくなっていくのではないでしょうか。

はじめからもらえると思っていなければ、たとえ相続財産が0円でもなんとも思わないかもしれませんが、たくさんもらえると思っていたのにもらえないとなれば、相続人間で揉めてまでも、自分の権利を主張する。これは、ある意味、当然に起こることなのかもしれません。

法定相続分の意味については誤解のないようしっかり理解しておいてください。

ちなみに、法律で守られる最低限の取り分は、法定相続分ではなくて遺留分です。ただ、相続人の中の誰かから遺留分を主張する人が出てくるような相続は、すでに揉めに揉めて悲しいことになっているケースといえるのではないでしょうか?

相続についての間違った思い込み③〜相続の話をするのは親不孝・不謹慎

「元気なうちから相続の話をするなんて縁起でもない」、「子供から親に相続の話を持ち掛けるなんて親不幸だ」、「円満なわが家に相続争いなんて起こるはずがない」、「俺に早く死ねと言っているのか!」などなど、世代によってはまだまだ、相続とか遺言とかの話が出るだけで、過剰に拒絶したり、機嫌が悪くなってしまう方がいます。

気持ちは分からないでもありませんが、そういう考えは視野が狭すぎますし、正直、間違っています。

相続について家族で話し合うのは親不孝でも何でもありません。

「相続が発生しないうちに家族で共有して揉めないようにする」これが、相続対策においていちばん大切なポイントなのです。いずれにしても、相続の話は早いうちにしておいた方が良いです。

相続の話を早いうちにしておいた方が良い理由
  • 被相続人(亡くなる人)がお金に強いとは限らない。
  • 被相続人が死期を間近にして正常な判断を下せるかどうかわからない。
  • 相続は残す側と残される側の複数の当事者がいる共同の問題である。

人はそれぞれお金に強い人もいれば弱い人もいます。家族の中にお金に強い人がいるのであれば、その人が中心となって、どうやったら最適な遺産分配を実現できるのかを考えていく必要があります。

相続の問題は、いかに世代間で上手に資産承継をするかという重要な問題ですが、被相続人がお金に強くて、家族をうまくまとめる力があったとしても、相続について本気で考え始める時というのはそれこそ死期が間近に迫っていて、それどころではない場合の可能性が非常に大きいです。また、体調によっては正常な判断ができなくなっているということも十分に考えられます。

そもそも、相続は多くの親族をも巻き込む問題です。遺産を残す人だけが納得して済むものではなくて、関係するみんなが納得することがとても大切です。

「俺の遺産なんだから俺がどうしようと勝手だ!」みたいな、財産を残す側が受け取る側のことを無視したような考えでいたら、到底、円満な相続を実現するのは難しいです。

相続は上手に関わることができれば家族の絆を強くすることができる機会でもあります。ですから、家族みんなが納得できるように早いうちから(今から!)相続について話し合っておくというのは、親不孝どころか、むしろ親孝行です。

結論、

相続の話をすることは不謹慎でも親不孝でも何でもありません(2回目)。

死について身近なものと考えて、普段から家族で話し合いをしておきましょう。話し合いをすることでこれまでよりも家族の絆が強まるなら、きっと円満な相続が実現できることと思います。

相続対策は、思い立ったときが始める時です。

「相続の話をするのはまだ早い」の「まだ」は、何と比べて「まだ」なのか全く根拠のない感じになってしまいますので、先延ばしにしたことによって、あとあと家族が困ることのないように、少しずつでも話し合いを始めてみることをおすすめします。