成年後見制度(法定後見)

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などによって物事の判断能力が十分でない方、衰えてきた方について、本人の権利を守るために援助をする人(後見人)を選ぶことによって、本人を法律的に支援する制度です。

例えば、認知症や脳梗塞などを患っている方が、不動産や預貯金などの財産を管理したり、遺産分割の協議をしたりする必要があった場合に、自分でこれらのことを行うのは容易ではありません。

疾患の程度によっては、法律的な能力が認められない場合も出てきますので、自分の銀行口座からお金を下ろすことが出来ないとか、きちんと判断ができないために詐欺や悪徳商法の被害にあう恐れもあります。

成年後見制度はそんな時のための制度です。

成年後見制度には、認知症などで判断能力が不十分になったり、無くなってしまった「後」の制度と、認知症などになる「前」(判断能力がまだ正常な状態のとき)の制度がそれぞれ用意されており、なった「後」の制度として「法定後見」制度、なる「前」の制度として「任意後見」制度があります。

今回は、物事の判断能力が不十分または無くなってしまった「後」の制度である、法定後見制度について説明いたします。

法定後見制度には3つの種類があります~後見・保佐・補助

法定後見制度は、「後見」、「保佐」、「補助」という3つの種類(類型)に分けられています。法律の資格試験などを勉強すると、民法のはじめの段階で学習することになる項目です。少し民法の勉強をしたことがある方は、「成年被後見人」とか「被保佐人」、「被補助人」などの言葉を聞いたことがあるかもしれません。

ですが、ひとつひとつ詳しく解説していくと資格試験のテキストみたいになってしまいますので、そこのところは六法や参考書などで勉強していただくとして、今回の記事は法定後見制度の概要を理解していただくことが目的ですので、個々の難しい解説は割愛いたします。

先ほど書いたとおり、法定後見制度は、「判断能力が不十分または無くなった後」の制度ですので、3種類の類型はそれぞれ、本人の判断能力のレベル(程度)によって分類されます。

法定後見制度の3類型
  • 後見…判断能力がまったくない場合
  • 保佐…判断能力が著しく不十分な場合
  • 補助…判断能力が不十分な場合

まず、後見の対象となるのは、自分の財産を管理したり処分したりすることがまったくできない人です。民法の条文では「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にある者」と表現しています(民法7条)。法律の言葉は難しいですね。

後見の対象になる方を助ける人(後見人といいます)が、医療や介護に関する契約や、収入や支出についての管理など、身上保護や財産管理などを行います。本人が行った不利な契約などを取消すこともできます(ただし、日用品の購入など日常生活に関する行為は取消すことが出来ません)。

後見の場合は、本人に判断能力が「ない」ので、後見人が本人に代わって(代理して)行いますが、保佐と補助の場合は本人に判断能力がまったくないわけではありません。「著しく不十分」であれば保佐、「不十分」であれば補助ということで区別しています。厳密にいえば、民法で細かく出来ることが規定されているのですが(民法13条)、ここでは割愛します。

「保佐」の対象になる人の場合は、簡単な契約は本人でもできますが、不動産を売るなど、重要な財産の処分や管理は、援助する人(保佐人)が必要です。基本的に保佐人は代理をするのではなく、本人の行為に対して「同意」をしてあげるのですが、訪問販売で高額な商品を買わされてしまったなど、本人にとって不利益な契約などは、保佐人が取り消すことが出来ます。

「補助」の対象になる人は、判断能力が不十分ではありますが、自分で契約をすることができます。援助する人(補助人)の力をかりて、手伝ってもらったり(同意をしてもらったり)、代わってもらったりした方が良いと思われる人たちです。

成年後見人や保佐人、補助人は家庭裁判所が選任します

成年後見制度では、判断の不十分な方を保護するため、本人を助ける人を選任して、本人の行為を制限したり、本人に代わってさまざまな法律に関する行為を行います。

これらの助っ人は、それぞれの類型によって、成年後見人、保佐人、補助人と呼ばれますが、これらの人々の選任は申立てにより、家庭裁判所が選任します。

成年後見人などの候補者として、本人の親族などを候補者として申立てることが出来ますが、必ずしもそれらの人たちが選任されるとは限りません。家庭裁判所は、財産や家族などを見た上で後見人等を選任します。本人の財産の管理を行いますので、法律の専門家である弁護士や司法書士などが選任されるケースが多いようです。

選任された後見人等(法定後見人)の役割は、本人の意思を尊重し、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、本人に代わって財産を管理したり、必要な契約を結ぶことによって、本人の保護や支援をします。また、財産目録や収支報告書などの作成をして家庭裁判所へ報告をします。

成年後見制度(法定後見)のメリットとデメリット~長所・短所もしっかり確認

親族に認知症などで判断能力が衰えてしまった人が出た場合に、「これは大変だ!すぐに家庭裁判所に申立てて法定後見人を選んでもらわないと!」と思うかもしれませんが、本当に成年後見制度を利用する必要があるのかどうかは、よくよく考えて判断する必要があります。

どんな制度でもすべてを解決する万全なものはありません。当然、メリットもあればデメリットもあります。法定後見人に選任されることが非常に多い、弁護士や司法書士などの専門家が後見人に就任したと仮定して、その場合のメリットとデメリットを考えてみましょう。

メリット
  • 家庭裁判所への報告書類の作成や申請を代行してもらえる…成年後見人は家庭裁判所へ定期的に財務状況を報告しなければなりません。必要な書類の作成なども専門家に任せることができれば安心です。
  • 弁護士や司法書士など公平中立な立場の専門家が後見人になることで、将来的な遺産分割をめぐる争いを回避できる…一部の身近な親族が財産を管理すると、使い込みが疑われたり、他の親族とのトラブルの原因になる可能性があります。
デメリット
  • 報酬が発生する(けっこう高額!)…専門家が後見人に就任した場合には当然、成年後見業務の対価としての報酬が発生します。財産総額によっても異なりますが、後見が続く限り長年にわたって報酬は発生し続けます。月に2~6万円が相場と言われていますが、仮に月3万円とすれば1年間で36万円。これが、後見が終了するまで続くわけです。10年続けば360万円です。
  • 親族とのトラブルになる可能性がないとは言えない…たとえ後見人が職務を誠実に行ない、本人の保護や利益を守るためにしたことでも、それがまわりの親族との意見の食い違いなどからトラブルに発展するケースがあります。親族以外の第三者が財産等の管理をするわけですから、心情的に対立する状況が起こったとしても不思議ではありません。
資産運用は成年後見人の仕事ではない?

成年後見人(法定後見)の行う財産管理は、本人の現状の財産をいかに維持するか、無駄遣いなどにより財産の減少をさせることのないようになどの観点から行われます。

老人ホーム入居の為の資金作りを目的とした不動産の売却なら認められるかもしれませんが、利益を得るための売却であったり、投資用としての不動産購入などは、それが本当に本人の為なのかどうかの判断が難しいため、認められない場合もあります。

したがって、相続税対策として、借入金で賃貸マンションを建築したりする場合には、家庭裁判所からNGが出る可能性が高いと思われます。相続税対策は本人の為というよりは相続人の利益の為と考えられるからです。

厚生労働省の資料によると、平成29年12月末の成年(法定)後見制度(保佐、補助を除く)の利用者は165,211人です。認知症を例に挙げれば、認知症の患者は現在、約500万人以上いると言われています。

ということは、成年後見制度の利用者は認知症患者の3.3%程度ということになります。あくまでざっくりとした仮定ですが、認知症などになったからといって、そのまま後見人を付けるということではないのが現状です。

成年後見制度に限らずですが、どんな制度にも長所と短所、メリットとデメリットがあります。事前にしっかりと制度を確認したり、専門家に相談したりして、より現状に合致した対策を取れるようにしたいものですね。