「プリンが嫌い」と言うには少し勇気がいる

少し前のことになりますが、お土産にいいなと思って、代々木上原のプリン屋さんに立ち寄りました。プリンは二種類。硬めと、柔らかめ。せっかくなら、好みのほうを買っていこうと思い、先方に聞いてみました。

「プリン、硬めと柔らかめ、どっちが好き?」

「そんなことは考えたこともありません」

たしかに。至極まっとうな答えです。

プリンを食べるたびに「うん。私はやっぱり硬め派だな」などと、自分のプリン観を確認しながら生きている人ばかりではありません。ということで、両方買っていきました。

あとになって、ふと考えたこと。

「プリンは好き?」とは聞いていない

いきなり「硬めと柔らかめ、どっちが好き?」です。プリンが好きであることはもう決まっています。

もし先方がプリン嫌いだったら「……実は、プリン苦手なんです」と言わなければならなかったわけです。

これは、ちょっと勇気がいる。もちろんプリンが嫌いな人だっているでしょう。食べ物の好みなんて人それぞれです。

でも、「プリン苦手なんです」と言われたら、たぶん「そうなんですね」と言いながら心の中で「プリンの何が?」と思ってしまう気がします。

ケーキなら分かります。「甘いものが苦手で」なるほど。たい焼きなら「あんこがちょっと」これも分かります。

でもプリン。甘い?いや、ケーキほどでもない。卵?そんなに卵料理っぽくない。カラメル?それならカラメルなしもあります。食感?……硬めと柔らかめがあります。逃げ道がありません。しかもプリンは体調がいまひとつのときまで強い。

「今日はケーキはちょっと……」はあります。「焼き菓子はちょっと重いな」もあります。でも「プリンなら食べられるかも」はある。冷たい。やわらかい。小さい。スプーンで食べられる。プリン側から人間に要求してくるものがものすごく少ないのです。

お土産としては決して優等生ではありません。日持ちはしないし、要冷蔵だったりするし、持ち歩きにも気を使います。

その点、バウムクーヘンは優秀です。日持ちする。持ち運びやすい。お土産として非常に頼もしい。でもプリンは「日持ちしないからなあ」とは思われても「だからプリン嫌い」とはならない。「プリンだからすぐ食べてね」で済みます。そして受け取った側には、今日か明日にはプリンを食べなければならないというなかなか幸福な義務が発生します。

プリンは不思議です。豪華でもない。高級品でなくても成立する。スーパーにもいるし喫茶店にもいるし専門店にもいる。元気なときのおやつにもなるし、ちょっと弱っているときには「まあプリンくらいなら」と寄り添ってくる。それでいて「プリン、好き?」という確認すら省略されることがある。

嫌いな人がいるかもしれない、という想定をこちらが忘れてしまう

そこがプリンのすごいところなのかもしれません。黄色くて、丸くて、ぷるんとして。何の圧もなさそうな顔をしています。なのに「まあ、私のことはお好きでしょうから」くらいのところから話を始めている。

そして今回も「プリンは好き?」ではなく「硬めと柔らかめ、どっちが好き?」から始まりました。結局、両方買いました。

ただ、もし本当はプリンが嫌いだったとしたら。あの質問に「プリン、苦手なんです」と答えるには―やっぱり、少し勇気がいったと思います。