以前お会いした方で、奥様を亡くされて一人暮らしになった男性がいました。長く暮らしてきた自宅でしたが、一人になってみるとだんだん管理が大変になってきたそうです。そこで、その方は自宅を売却してサービス付き高齢者向け住宅へ住み替えました。
「自宅を手放した」といえばそのとおりですが、少し見方を変えると、家という財産をこれからの暮らしに使いやすい「お金」という形に変えたと考えることもできます。自宅は大切な財産ですが必ずしも最後まで持ち続けなければならないものでもありません。
最後まで自宅で暮らした場合、その家はどうなるのでしょう
おひとり様の終活では「自宅の最後」についても考えることがあります。子どもはいない。特に相続してほしい親族もいない。それなら自分が亡くなったあと、この家を何かの役に立ててもらいたい。
生前から応援している法人や団体があれば「この家をそこに寄付できないかな」と考えることはとても自然な発想だと思います。ところが、不動産の寄付は現金の寄付とは少し事情が違います。
「家をもらえるのだから喜んで受け取ってくれるのでは?」と思うかもしれません。しかし実際には、不動産をそのまま受け入れてくれる法人や団体はそれほど多くありません。
家を受け取るということは、その後の面倒も引き受けるということ
たとえば、100万円の現金を寄付すればその100万円はすぐに活動のために使うことができます。では「1,000万円くらいの価値がある家」ならどうでしょう。1,000万円の現金と同じようにすぐ使えるわけではありません。
誰も住まない家でも管理は必要です。固定資産税などもかかります。マンションなら管理費や修繕積立金も続きます。建物が古ければ修繕や解体が必要になることもあるでしょう。家の中に家具や家財が残っていればそれをどうするのかという問題もあります。
そして何より「売ろうと思ったときに本当に売れるのか」という問題があります。法人や団体から見れば、不動産を受け取るということは価値のある財産を受け取るだけではありません。その後の管理や処分まで引き受けることでもあります。
「私の自宅を○○法人に遺贈する」と遺言に書けばそれだけで希望どおりになるとは限らないのです。
さらに、不動産を法人などへそのまま遺贈するときには税金にも注意が必要です。ケースによっては不動産を時価で譲渡したものとして扱われる「みなし譲渡」という問題が生じることがあります。少し不思議に感じるかもしれませんが、場合によっては不動産を受け取っていない相続人側に譲渡所得税の負担が生じることもあります。
ここで覚えておきたいのは細かな税金の仕組みではありません。寄付だからといって税金の問題と無関係とは限らない。それくらいの感じで知っておくだけでよいと思います。
誰かの役に立ててもらいたいと思って残した財産が思いがけない負担を残してしまっては、本人が望んだ形とは違ってしまいます。
「家そのもの」ではなく「家の価値」を届ける
では、不動産をそのまま受け取ってもらうのが難しいのであればどうしたらよいのでしょう。
ひとつの方法があります。家そのものを渡すのではなく家を売ってお金に換えてから届けるという方法です。たとえば遺言で自分が亡くなったあとに不動産などを売却し、必要な債務や税金、費用などを支払ったうえで、残ったお金を指定した法人や団体へ遺贈するようにしておきます。
こうした方法は一般に「清算型遺贈」と呼ばれています。
名前だけ聞くと少し難しそうですが、考え方はそれほど複雑ではありません。「家」を寄付するのではなく「家の価値」を届けるということです。これなら受け取る法人や団体が不動産そのものの管理や売却を引き受ける必要もなくなります。
ここでもうひとつ考えておかなければならないことがあります
家を売ってそのお金を寄付する。言葉にすれば簡単です。でも、それを実行するときには本人はもういません。誰かが不動産会社とやり取りをする。買主を探して売買を進める。必要な登記手続きをする。売却したお金を管理する。必要な費用や税金を支払う。そして最後に残った財産を指定された法人や団体へ届ける。
誰かが実際に動かなければ遺言に書かれた希望は実現しません。そこで大切になるのが遺言執行者です。清算型遺贈を考えるのであれば「自分の財産をこうしてほしい」と遺言に書くだけではなく「では、それを誰にやってもらうのか」まで考えておく必要があります。
遺言は書いて終わりではありません。自分がいなくなったあとその内容が実際に動いていくところまで想像しておく。そこも大切なところです。
冒頭の男性は、奥様を亡くされたあと自宅を売却してサービス付き高齢者向け住宅へ住み替えました。家という財産をこれからの自分の暮らしを支える形へ変えたわけです。
一方で「できるだけ最後までこの家で暮らしたい」という方もいるでしょう。もちろんそれもひとつの選択です。ただ、その場合には自分がいなくなったあとの家についてもいつか考えることになります。
親族に残す。亡くなったあとに売却してもらう。あるいは、お金に換えて自分が応援してきた法人や団体へ届ける。いろいろな出口があります。
自宅について考えるとき「誰に残すか」だけではなく「どんな形で残すか」まで考えてみると選択肢は少し広がります。長く暮らしてきた大切な家だからこそ、その家の最後まで自分なりに決めておく。それもおひとり様の終活のひとつなのだと思います。









