古い戸籍を読んでいると、今では見かけなくなった文字に出会うことがあります。変体仮名もそのひとつです。古い戸籍を見る機会は多いので、変体仮名が出てきたからといってそのたびに画像を保存しているわけではありません。
ところが先日、一枚の戸籍を見ていてなんとなく手が止まりました。字がとてもきれいだったのです。普段ならそのまま読み進めるところをついスキャンしてしまいました。
今回は、その戸籍に書かれていた、たった一文字のお話です。
この女性のお名前は「たみ」さん

上記の戸籍に書かれている女性のお名前。「たみ」さんと読みます。「み」はなんとなく分かるとしてその上の文字。これが「た」です。現在私たちが使っている「た」とはずいぶん形が違います。
でも、古い戸籍を読んでいる私にとっては、この「た」はわりとおなじみの文字です。「あ、この『た』ね」という感じです。
昔の人が「た」をものすごく崩して書いた結果こうなったわけではありません。これはちゃんと「た」として使われていた文字です。
昔は「た」がひとつではありませんでした
現在、ひらがなの「た」といえば「た」です。手書きなら多少の違いはあっても「た」という文字そのものは基本的にこの形です。ところが昔は同じ音を表す仮名にもいくつもの字体が使われていました。
ひらがなはもともと漢字を崩して生まれた文字です。同じ「た」という音でも、もとになる漢字が違えば、違った形の「た」が生まれます。そうしたさまざまな仮名が長く使われていましたが、明治時代になると学校教育で教える仮名の字体が整理されて現在使われているひらがなが定着していきました。
現在では昔の仮名字体を一般に「変体仮名」と呼んでいます。「変体仮名」というとなんだか難しそうですが、昔はこんな「た」もあったくらいの認識で十分です。
こちらが、変体仮名の「た」

こうして一文字だけ取り出して見ると、やはり現在の「た」とはかなり違います。
知らなければこれを「た」と読むのはなかなか難しいかもしれません。でも、一度知ってしまうと不思議なもので古い戸籍の中で再び出会ったとき「あ、いた」となります。最初は不思議な記号のように見えていた文字がいつの間にか顔なじみになっています。
それにしても、この「た」はきれいです
ここで、最初の戸籍の「た」をもう少し近くから見てみます。

やっぱり、きれいだと思うのです。
変体仮名の「た」自体は、私にとってそれほど珍しいものではありませんが、この戸籍の「た」は線の運びがすっとしていて「み」と並んだ「たみ」という二文字の姿も美しい。
戸籍はもちろん字の美しさを鑑賞するために作られたものではありません。それでも古い戸籍を見ていると、ときどき「この人、字が上手だなあ」と思うことがあります。
一文字ずつ人の手で書かれていた時代の戸籍。名前や生年月日、身分関係といった記録だけでなく、そこには書いた人の筆の跡まで残っています。
この記事を読んだからといって変体仮名をたくさん覚える必要はありませんが、もしどこかで古い戸籍や昔の文書を見る機会があってこの文字に出会ったら「あ、この『た』知ってる」と思っていただけたらちょっとうれしいです。
読めなかった昔の文字が一文字ずつ顔なじみになっていく。古い戸籍を読む楽しさにはそんなものもあります。









