誰も揉めていないのに、相続が終わるまで5か月かかりました―子どものいないご夫婦の相続であらためて遺言の大切さを感じた出来事

「相続でもめるのは、家族仲が悪い場合だけ」そんなイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際には誰も争っていなくても相続手続きに長い時間がかかることがあります。

今回は、私がお手伝いした一つの相続手続きをご紹介します。(※実際の事例をもとにしていますが、個人が特定されないよう内容を一部変更しています)

ご自身で奥様の相続手続きをするため、銀行へ出向いたご主人の話

ご相談いただいたのは、お子さんのいないご夫婦のご主人でした。奥様が亡くなられ、ご自身で銀行へ相続手続きに行かれたそうです。ところが「相続人全員のご協力が必要になります」との説明を受けて手続きの流れを知ることになります。

はじめは、なんとかご主人自身で手続きを進めようとしたものの、途中で「これは一人では難しい」と感じてご相談くださいました。

お話を伺うと、奥様には兄弟姉妹がいらっしゃいました。ただ、長い間交流がなくて連絡先も分からない方がおられます。奥様が亡くなられたことも、まだお伝えできていませんでした。

戸籍をたどって分かったこと

戸籍を調査してご主人以外の相続人が分かりました。お兄様がお一人、お姉様が三人。そのうちお一人はすでに亡くなられており、そのお子さんである甥御さんが相続人となっていました。

戸籍の附票なども活用して、それぞれの住所を調べます。

手紙を書いて連絡を待つ

住所が分かったからといってすぐに手続きが進むわけではありません。ご主人は、何年も連絡を取っていない義理の兄弟姉妹へ奥様が亡くなられたことをお知らせしなければなりませんでした。

「突然お手紙を差し上げても失礼ではないでしょうか」

そんなご主人のお気持ちを伺いながら、私もお手紙の文案を一緒に考えます。亡くなられたことのお知らせ、ご連絡が遅くなったことへのお詫び、相続手続きには皆様のご協力が必要であること、まずはご連絡をいただきたいこと。

事務的なお願いの文面にならないように、丁寧な内容のお手紙を心がけました。

皆さんが協力してくださいました

その後、お手紙をお送りした皆様全員と連絡を取ることができました。皆様お元気で、年齢的に心配していた、施設へ入所中の方や認知症の方などもいらっしゃいませんでした。

皆様とても誠実に対応してくださり、神奈川県、埼玉県、宮城県と離れて暮らしておられることもあって、細かな話し合いを重ねるのではなく、法定相続分どおりに分けることで全員が合意されました。

必要書類をご返送いただき、銀行での相続手続きを進め、預金は無事に払い戻されました。そして、それぞれの相続人へ相続分をお渡しすることができました。

それでも、5か月かかりました

この一連の手続きが終わるまでにおよそ5か月かかりました。誰かが反対したわけではありません。争いがあったわけでもありません。むしろ、皆様が協力してくださったからこそ、無事に終えることができた事案でした。

それでも、戸籍を調べ、住所を探し、お手紙を書き、返事を待ち、委任状や印鑑証明書を提出していただき、銀行で手続きを行う。ひとつひとつを丁寧に進めるにはどうしても時間が必要でした。

どものいないご夫婦と遺言

子どものいないご夫婦では、配偶者だけでなく亡くなられた方の兄弟姉妹も相続人になることがあります。

一方で、兄弟姉妹には「遺留分」がありません。

そのため「すべての財産を夫(または妻)に相続させる」という遺言が残されていれば、兄弟姉妹に遺産分割協議の協力をお願いする必要がなくなります。

もちろん、遺言があっても必要な手続きはあります。それでも、残されたご家族の負担は大きく変わります。

何年も会っていなかった義理の兄弟姉妹へ手紙を出し、その不安から何度も私に電話をかけてこられたご主人が、一連の手続きを終えて安堵した様子を拝見して、お役に立ててよかったと思うと同時に、残された人が困らないように、大切な人が余計な負担を負わなくて済むように、そんな思いやりを形にする方法として、遺言の準備も是非、考えておいていただきたいなと改めて感じた出来事でした。