遺言の必要性~遺言を作成しておくべき7つのケース

遺言は、遺言者の意思をその死んだ後に実現し、相続をめぐる争いを防ぐことができます。ですので、遺言者にとって有益なものであるというだけではなく、残された相続人や受遺者(遺言によって財産を引き継ぐ者)にとっても有益なものです。

しかしながら、実際に遺言を残すかどうか迷っていたり、遺言に関して誤解しているところがあったりして、「遺言なんて残す必要がない」と思い込んでいる方も多くいらっしゃるようです。

遺言を残す時期の問題もあるでしょう。「遺言を残すにはまだ早い」と思っていても、いつまで心身ともに健康でいられるかわかりません。

遺言は「遺言能力」がなければ残すことができませんから、例えば、高齢で認知症になってしまったり、たとえ若かったとしても、病気などで判断能力が衰えている場合などは、遺言そのものが無効となったり、遺産を少なくされてしまった相続人等から「遺言能力に疑いがある!」との指摘が入って、相続人間の争いに発展する事態も考えられます。

遺言を残すことは、多かれ少なかれ心理的負担となる部分もあるでしょうから、遺言者の心身の状態が良いときに、家族関係や状況をよく頭に入れて、それにふさわしい形で財産を引き継ぐことができるように遺言をしておくことが大切です。

では、どのような状況に置かれている人が、遺言を残す必要性の高い人たちなのでしょうか?

今回は、改めて遺言を残す必要性をしっかりと考えていただくきっかけになれば良いと思い、遺言をしておく必要性が特に強いと考えられる7つのケースをご紹介することにいたしました。ぜひ参考にしてみてください。

では、7つのケースを順番にみていきましょう。

①夫婦の間に子供がいない場合

夫婦の間に子供がいない場合で、例えば、夫が亡くなった場合、法定相続ということになると、夫の財産は、その両親が既に亡くなっている場合、妻が4分の3、夫の兄弟姉妹が4分の1のという割合で財産を分け合うことになります。

しかし、長年連れ添った妻に自分の財産をすべて相続させたいと思う方も多いのではないでしょうか?

そういった場合、妻が相続分のすべてを受け取れるようにしてあげるには、遺言をしておくことが必要となります。

兄弟姉妹には、遺留分がありませんので、きちんと遺言を残しておけば、愛する妻に財産の全部を残してあげることができるのです。

②離婚歴があり、先妻との間に子供がいる場合

前妻との間に子供がいて、離婚後に再婚をして後妻がいる場合の相続では、先妻との間の子と後妻の間で遺産分割をすることになります。

先妻の子と後妻との間では、とかく感情的になりやすく、遺産をめぐる争いも高い確率で発生しています。仮に、先妻との間の子供がまだ未成年であれば、遺産分割協議を先妻と後妻の間で行わなければなりません。これはお互いにとってかなりのストレスではないでしょうか?相続をめぐる争いに発展する可能性が高いことも容易に想像できます。

争いの発生を防ぐために遺言をきちんと残して、相続分を定めておく必要性が特に高いケースといえるでしょう。

③息子の嫁(娘の婿)に財産の一部を譲りたい場合

例えば、息子が早くに亡くなり、息子の死亡後、息子の妻がずっと面倒を見てくれたというような場合、息子の妻にも財産を残してあげたいと考える方も多いかと思います。

しかしながら、息子の妻は相続人ではありませんので、何もしなければ財産を残してあげることはできません。

このようなときに、息子の妻に財産を残してあげるには、遺言を残して、「遺贈」することによって、息子の妻にも財産を残してあげることができます。

④内縁の妻に財産を譲りたい場合

長年、夫婦同様に連れ添ったとしても、婚姻届けを出していない場合には、いわゆる内縁関係ということになりますので、法律上、内縁の妻に相続権は発生しません。

ある程度年齢を重ねてから、あるいは再婚の者どうしの間では、籍を入れるまでしばらく様子を見ようということもあるかもしれません。そのような場合に、相手方が亡くなったとしても法律上の夫婦ではありませんから、お互いがお互いを相続することは一切ありません。

籍は入れていなくても、相続において、内縁の相手方に配慮をしてあげたい場合(内縁の妻に財産を残してあげたい場合など)には、しっかりと遺言を残しておかなければなりません。

⑤会社を経営しているため、店舗や工場などを分散させたくない場合

会社を経営していたり、個人事業を営んでいる場合には、誰に跡を継がせるのかを明確にしておく必要があります。

事業等の財産(株式等)を複数の相続人に分割してしまうと、やはり事業の継続においてはいろいろと不都合や困難が発生する原因となるでしょう。このような事態を招くことを避けて、事業を特定の者にしっかりと承継させたい場合には、その旨をきちんと遺言にしておくべきと考えられます。

⑥虐待などの理由で、相続人の中に財産を譲りたくない者がいる場合

少し特殊なケースになりますが、例えば、子供から虐待を受けた、酷い侮辱行為があったなど、何かしらの理由で相続人の中の特定の者にだけは相続させたくないと考えた場合に、家庭裁判所に申立てすることにより、虐待や侮辱行為を行った者を相続人から除外することができる制度があります。

その制度のことを「廃除」といいますが、その廃除を遺言ですることができます。生前に廃除手続きをすることもできるのですが、その相続人との間でさらに大きなもめごとに発展する可能性もあります。そのような場合に、自分が亡くなったときに廃除の効果を発生させる方法が遺言による廃除です。

ただし、廃除は相続人の相続権を完全に奪ってしまう厳しい制度の為、認められる要件は厳しくなっています。

⑦相続人が誰もいない場合

相続人となる者が誰もいない場合、特別な事情がない限り、その財産は国庫に帰属します。要するに、国のものになるのです。

このような場合に、特別お世話になった人に財産を渡したいとか、お寺や教会、社会福祉関係の団体、あるいは、自分が有意義と感じる各種の研究機関等に寄付したいと思う方もいらっしゃると思います。そういった場合には、その旨を遺言にして残しておく必要があります。

遺言残すことが特に重要となるケースを7つ挙げましたが、他にもまだまだ遺言を残すべきケースはあります。

「うちは家族円満だから大丈夫」「争うほどの財産がないから大丈夫」「自分が亡くなった後のことは残った家族で決めてほしい」など、自分が遺言を残すことに消極的な方もいらっしゃると思います。

しかしながら、遺言を残すことで、ご本人のお気持ちが残された方に伝わり、円満な相続になることはもちろんのこと、手続きの面でもスムーズ進み、残された方の負担を少なくしてあげられます。

どんなご家庭であっても、遺言を残しておくというのは重要です。一度、ゆっくりと遺言の作成について考えるお時間をとっていただくことをおすすめします。