相続の手続をはじめるにあたり、相続人は誰なのかを確定する作業をしなければなりません。相続をする資格を持つのはいったい誰なのか?まず、相続人に該当する者を調べることが必要となります。なお、相続は死亡により開始します(この死亡した人物のことを被相続人と呼びます)。
民法882条(相続開始の原因)相続は、死亡によって開始する。
ある人物の相続において、その人物の死亡以前に死亡した人が相続人になることは絶対にありません(同時存在の原則)。このことは相続を考える上での基本となります。このことを踏まえた上で、誰が相続人に該当するのか順番に見ていきましょう。
配偶者は特別扱い!常に相続人となります
相続人の中でも配偶者(結婚相手)の扱いは特別です。常に相続人となります。そして、配偶者以外の子供や親、兄弟姉妹などにはそれぞれ、相続できる優先順位が決められていて、その優先順位が高い順番で、「第1順位」「第2順位」というように呼ばれます。例えば、第1順位の立場の者が存在すればそのまま第1順位の立場の者が相続します。仮に第1順位の立場の者がいないときにはじめて第2順位の立場の者が相続人となります。
そして、「配偶者は常に相続人」ということですので、仮に第1順位の立場の者が存在していれば、相続人は「配偶者と第1順位の者」、第1順位の者が存在していなくて第2順位の者が存在していれば、相続人は「配偶者と第2順位の者」ということになります。これが「配偶者は常に相続人」の意味です。
相続人の順位には第1順位、第2順位、第3順位まであります
ではここから、相続する優先順位を第1順位から順番にみていきましょう。
第1順位 被相続人の子(場合によっては孫やひ孫が相続人になることも!)
民法の887条の1項に「被相続人の子は、相続人となる」というとても分かりやすい条文があるのですが、実は、2項で「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、…その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし…」というようなことが書いてあります。すべて解説すると難しくなるのですが、要するに、被相続人に子供がいれば子供が相続するけど、その子供がすでに亡くなっていたらさらにその子(被相続人からみたら孫)が相続しますよということです。
ここで「代襲」という言葉が出てきました。わかりやすく言うと、被相続人の死亡前にその子がすでに亡くなっていたが、孫がいたので、世代を飛び越えて孫が相続するというようなケースのことです。
ちなみに、「子」とは法律上の親子関係が存在すれば、実子でも養子でもかまいませんし、例えば、離婚した先妻との間の子であるとか、いわゆる嫡出子であるとか非嫡出子であるとかといったことも一切問いません。
まとめると、第1順位の相続人は子供(すでに子が亡くなっていて、その子の子(孫)がいたらその子(孫)。いわゆる直系卑属に当たる者)です。まれなケースかもしれませんが、被相続人の子も孫も亡くなっていて、ひ孫がいたらどうなるか?もちろん、ひ孫が相続人です。ひ孫は直系卑属です(再代襲といいます)。
第2順位 被相続人の直系尊属~代襲相続の逆バージョンはあるの?
被相続人に子がいなければ、第2順位の者が相続人となりますが、第2順位に当たるのは直系尊属です。被相続人の父母や祖父母です。民法の条文(889条1項1号)には、「被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする」とあります。
わかりづらい表現が出てきました。まず、親等とは、親族間の遠近を表す単位のようなものと考えると分かりやすいと思います。親等が小さければ近い親族関係、大きくなれば遠くなります。被相続人からみて、父母は親ですから1親等、祖父母は親の親ですから2親等です(同じく被相続人の子は1親等、孫は2親等です。ちなみに兄弟姉妹は親(1親等)の子なので2親等です)。
「親等の異なる者の間では、その近い者を先にする」のですから、父母が生きていれば、父母が相続人となり、父母の双方がすでに亡くなっていて祖父母が生きていれば祖父母が相続人となります(祖父母は親の親ですから、通常は年齢的にも珍しいケースといえます)。
代襲相続の逆バージョンはありません!
直系卑属(子や孫)の場合は、世代を飛び越えて相続する代襲相続というパターンが存在しましたが、直系尊属の場合は、「被相続人の父親は生きているが、母親が亡くなっているので、母親のさらにその親が世代を飛び越えて相続するから、相続人は父親と母方の祖父母」というようなことにはなりません。
父母の一方でも存命なら祖父母は相続しません。あくまで父母共に死亡していて、祖父母が生きている場合にはじめて相続します。「代襲相続の逆バージョンはありません」のでご注意を!そもそも代襲相続は、遺産を血縁の流れに従って上から下へと受け継がせることを目的とした制度なのです。
ちなみに、条文上、第2順位は「直系尊属」なので、父母双方が死亡していれば祖父母、祖父母双方が死亡していれば、さらにその親の曽祖父母が相続するという理屈にはなりますが、人間の寿命を考えるとそのようなケースはほぼ発生しないでしょう。
第3順位 兄弟姉妹~子供も親もいない場合にはじめて兄弟姉妹が相続人となります
相続人となることのできる最後の順位となる第3順位は兄弟姉妹です。被相続人に子供がいない、さらに両親もすでに亡くなっているというような場合にはじめて兄弟姉妹が相続人として登場します。
兄弟姉妹が相続人となる場合、当然、兄弟姉妹が何人いようとも全員が相続人です。では、仮に被相続人が3人兄弟の末っ子(三男)で兄が2人いたと仮定し、長男は生きているのですが、二男がすでに亡くなっていて、二男に子供が2人いたとします。この場合は二男の子供2人は代襲して相続することとなり、相続人は長男と二男の2人の子供(被相続人からみて甥・姪にあたる)となり、これら3人が相続します。
例えば、上記の例で、二男の子供2人のうちの1人がやはりすでに亡くなっていて、さらにその子がいた場合に、甥・姪の子にあたる者が再代襲というかたちで相続人になるのでしょうか?
この点については、結論として再代襲はしません。つまり、甥や姪の子が、叔父や叔母を相続することはないということです。
民法は、相続人の範囲を甥・姪のところで打ち切っています。兄弟姉妹の直系卑属への再代襲を孫やひ孫のように無限に認めてしまうと、相続人の範囲が無限に拡大してしまい、収拾がつかなくなってしまう可能性がでてくるからです。甥の子供と叔父の関係あたりでも、普段、会う機会もないので顔も知らない仲ということも多いのではないでしょうか。
相続人となる人の範囲をまとめると、以下の図のようになります。相続にあたって誰が相続人に該当するかということはとても重要なことなので、しっかり把握しておきましょう。
被相続人からみて、子や孫のことを法律用語で「直系卑属」と呼びます。直系卑属とは、子や孫のような自分より後の世代で、直通する系統(直接の親子関係で繋がっている)の親族のことです。父母、祖父母のように自分より前の世代は直系尊属といいます。
一方、親が同じだけれども直接の親子関係で繋がっていない関係(祖先が同じの分かれた系統)を傍系といいます。一番身近な傍系は兄弟姉妹ということになります。