『交付できません』の一行から日本最初の戸籍にたどり着きました

戸籍調査をしていると、ときどき「交付できません」という通知書を受け取ることがあります。明治5年式除籍についても、自治体によっては照会をしてくださることがあります。

これまで私が見てきた通知書は、ほとんどがこのような内容です。

「明治5年式除籍のため、謄抄本は交付できません」実務上はそれで十分です。交付できないという事実が分かれば、調査は次の段階へ進めます。

ところが先日、一枚の証明書を見て思わず手が止まりました。そこにはこんな一文が添えられていたのです。

「昭和43年3月29日付け法務省民事甲第777号の通達に基づき、廃棄したことを証明する」

私はこれまで数多くの戸籍や証明書を見てきましたが、明治5年式の戸籍に関する証明書で、その根拠となる法務省通達まで記載された証明書は初めてでした。

「なぜ、ここまで書いてあるのだろう」

気になって実際の通達の内容を調べたところ、この通達は日本で最初の近代戸籍である壬申戸籍に関するものでした。

明治5年に編製された壬申戸籍には、現在では人権上きわめて慎重な取扱いが求められる情報も含まれていました。そのため昭和43年に法務省は通達を出し、自治体では廃棄や厳重な保存管理が進められることになります。

つまり、この証明書に書かれた一行は、日本最初の戸籍がたどった歴史を静かに物語っていたのです。

私がこれまで見てきた多くの通知書は「交付できません」という事実だけを伝えていました。それで十分なのに、この証明書は「なぜ交付できないのか」という、その背景へ続く扉を少しだけ開いてくれました。

普段なら見過ごしてしまう一文字。いつもと少し違う言い回し。根拠条文や通達番号。小さな違和感から調べ始めると、その向こうに制度や歴史、人々の暮らしが見えてくることがあります。

「交付できません」の向こう側~「捨てる」か「残す」か

壬申戸籍(じんしんこせき)とは、明治5年(1872年)に全国で編製された日本最初の近代戸籍です。近代的な戸籍制度の出発点となった一方で、現在では重大な人権問題につながり得る記載も含まれていました。

そのため昭和43年に法務省が通達を出したわけですが、この通達は「すべて廃棄せよ」というものではありませんでした。利用する見込みのない戸籍は廃棄を認める一方、保存する場合は厳重に封印し、外部へ漏れないよう管理することを求めています。日本最初の戸籍は、歴史資料であると同時に人権への深い配慮が必要な資料でもあったのです。