先日、自筆証書遺言書保管制度の利用状況について書かれた新聞記事を読みました。制度が始まってから6年。利用件数がそれほど伸びていないことなどが紹介されていました。
記事を読みながら少し別のことが気になりました。そもそも、この制度はたくさんの人が利用すればよい制度なのでしょうか。
自分で書いた遺言を法務局に預ける
自筆証書遺言書保管制度はその名前のとおり、自分で書いた遺言書を法務局で保管してもらう制度です。自宅で保管しているとどこに置いたかわからなくなったり、亡くなったあとに見つけてもらえなかったりすることがあります。法務局に預けておけばそうした心配を減らすことができます。
また、法務局で保管されている自筆証書遺言については、亡くなったあとの家庭裁判所での検認も必要ありません。自筆証書遺言の弱いところを「保管」という面から補ってくれる制度と考えるとわかりやすいかもしれません。
こんな使い方ならとても自然です
たとえば、遺言の内容は比較的シンプルで家族にも遺言を書いたことを伝えている。家族関係についても特に争いになりそうな事情はない。できるだけ費用をかけずに自分で遺言を書きたいけれど自宅に置いておくのは少し心配。そんなときに「それなら法務局に預けておこう」というのはとても自然な選択だと思います。
紛失や亡くなったあとに遺言書が見つからないといった心配を減らすことができ、検認も必要ありません。自筆証書遺言を選ぶ人にとって便利な選択肢のひとつです。
「預けること」と「その後の手続」は別の話
一方で、法務局に遺言書を預けたからといって亡くなったあとの手続がすべて自動的に進むわけではありません。
相続が始まったあと、相続人や遺言執行者などが遺言書の内容を証明する「遺言書情報証明書」の交付を受けるには所定の手続が必要です。その際には相続関係を確認する書類なども必要になります。
つまり、「法務局に預けてあるから亡くなったらすぐに取り出してそのまま手続が進んでいく」という仕組みではありません。これは制度の良し悪しというよりそもそもの役割の違いでしょう。法務局は遺言書を保管してくれますが、遺言の内容を一緒に考えたり亡くなったあとの相続手続や遺言執行までを引き受けたりするわけではありません。
心配なのは「保管」でしょうか
ここで一度「自分は何を心配しているのだろう」と考えてみてもよいかもしれません。遺言書を紛失したくない。亡くなったあとにきちんと見つけてもらいたい。心配ごとが主に「保管」であれば法務局の保管制度は心強い仕組みです。
一方で、家族関係が少し複雑だったり、相続人以外の人に財産を遺したかったり、遺言の内容について後々疑問が生じることが心配だったりすることもあります。また、専門家を遺言執行者に指定して、亡くなったあとの手続まで見通して準備しておきたいという場合もあるでしょう。そうなると、心配していることは「遺言書をどこに置いておくか」だけではなくなります。作成する段階から専門家に相談したり、公正証書遺言を選んだりすることも選択肢になってきます。
どちらが優れているという話ではありません
自筆証書遺言と公正証書遺言。そして、自筆証書遺言には自分で保管する方法もあれば法務局に預ける方法もあります。どれかひとつがすべての人にとって一番よいというものではありません。
家族関係はどうなのか。誰にどの財産を遺したいのか。亡くなったあと誰が手続をするのか。そして自分は何を心配しているのか。それによって選ぶ方法も変わってきます。
自筆証書遺言書保管制度は便利な制度です。ただ、利用する人が多ければ多いほどよいというものでもないように思います。
自分で保管する。法務局に預ける。公正証書で作る。それぞれにそれぞれの役割があります。それぞれの事情にあわせてそれぞれの様式で。遺言の作り方もそんなふうに考えてみてよいのではないでしょうか。










