「払えなくなったらどうするんですか」―安心は不安の中から始まるのかもしれません

先日、公正証書を作成するための面談で、任意後見契約についてご説明する機会がありました。お客様は、おひとりで暮らす75歳の女性です。

「認知症にならないか心配なの」

まだお元気です。今もお仕事を続けていらっしゃいます。それでも「もしものとき」に備えて、自分で判断できる今のうちに準備をしておきたい。任意後見契約もその中のひとつでした。

契約内容をご説明する中で、任意後見人の報酬についてもお話ししました。すると、お客様は少し考えて、こう尋ねられました。

「払えなくなったら、どうするんですか」

実は、この質問は初めてではありません。以前にも同じような質問を受けたことがあります。

将来の暮らしは誰にも分かりません。年金だけで生活する時期が来るかもしれません。医療費や介護費用が想像以上にかかることもあるでしょう。だからこそ「本当に払い続けられるだろうか」と心配になるのはごく自然なことです。

私は制度の仕組みをご説明したうえで「もし事情が変わったときには、一人で抱え込まず、まずは相談してください」とお伝えしました。制度は人を追い詰めるためのものではなく、その人の暮らしを支えるためにあるものだからです。

説明が終わると、お客様が笑いながらおっしゃいました。

「やっぱり、お金のことだから気になるのよねえ」

終活というと制度や手続きの話になりがちです。でも、実際に多くの方が最初に気にされるのはお金のことです。それは、お金が惜しいからではありません。これからの暮らしを真剣に考えているからこそ不安になるのです。

「気になること」は、準備を始めた証拠

終活は不安がなくなってから始めるものではありません。不安があるからこそ準備を始めます。

「こんなことを聞いてもいいのかな」と思われるような疑問ほど実は大切なものです。遠慮せず言葉にすることで、不安は少しずつ整理されて安心へと変わっていきます。

認知症になりたくてなる人はいません。だからこそ元気な今、自分で決められるうちに準備を始める方がいます。

「認知症になったらどうしよう」「本当に払っていけるだろうか」

そんな不安を抱えたまま、一歩を踏み出す方もたくさんいらっしゃいます。今回のお客様も、そんなお一人でした。